プロジェクトマネジメント知識体系 (PMBOK) ガイドに関するノート

プロジェクトマネジメント知識体系 (PMBOK) ガイドに関するノート #

概要 #

本ページでは,プロジェクトマネジメント協会 (PMI) が発行するプロジェクトマネジメント知識体系 (PMBOK) ガイドの第6版日本語版 [1],第7版日本語版 [2] の違いについてまとめます.

はじめに #

プロジェクトマネジメントに関する知識を体系化したものとして,プロジェクトマネジメント協会 (PMI) が発行する プロジェクトマネジメント知識体系 (PMBOK) ガイドが広く知られています.

近年 (2022年11月), PMI 日本支部より,PMBOK ガイド第7版の日本語版 [2] が刊行されました.

本ページでは,PMBOK ガイド第6版日本語版 [1],第7版日本語版 [2] の違いを中心に,それら概要をまとめます.

第6版・第7版の違い #

本節では,第6版日本語版・第7版日本語版(以下,単に第6版,第7版と呼ぶ)の違いについて述べます. この違いを明確にする目的で,第6版,第7版の概要をまとめます.

まず,第6版の概要は以下のとおりです.

  • PMBOK ガイドはプロジェクトマネジメント標準に基づきまたこれを含む.
  • PMBOK ガイドおよびプロジェクトマネジメント標準は規律的実務慣行でなく,模範的実務慣行に基づく.
  • PMBOK ガイドが述べるのは知識体系であり方法論ではない.
  • プロジェクトマネジメント標準は特定のプロセスまたは実務慣行の実施を要求するものではない.
  • プロジェクト・ライフサイクルは,プロジェクトマネジメント・プロセス(以下,プロセス)を実施することでマネジメントされる.
  • プロセスはインプットがあり,ツールや技法の適用を経てアウトプットを生成するものである (ITTO).
  • プロセスは5個のプロジェクトマネジメント・プロセス群(以下,プロセス群)に分類される.
  • プロセスは10個の知識エリアにも分類される.
    • 知識エリアとは,知識に対する要求事項によって定義されたものである.
  • プロセスは次の事項を通して,一貫した予測可能な実務慣行を可能とする1
    • 文書化できる.
    • プロセスに対するパフォーマンスを評価できる.
    • 効率を最大化し,脅威を最小化するようにプロセスを改善できる.
    • PMBOK ガイドの後にプロジェクトマネジメント標準を置く構成とした.

次に,第7版の(特に第6版との差分に着目した)概要は以下のとおりです.

  • 成果物でなく意図した成果をより重視するため,原理・原則ベースの標準に移行した.
    • プロセスベースの標準は本質的に規範的である.
    • 過去のプロセスベース指向では価値実現の全貌を示すための方法として維持できない.
  • 過去の版のプロセスベース・アプローチとの整合を無効にする内容は存在しない.
  • プロジェクトマネジメント標準の価値実現の全体観に始まり,その後 PMBOK ガイドの内容表現へと続く構成とした.
  • 10個の知識エリアは8個のパフォーマンス領域へ変更した.
  • PMBOK ガイドにテーラリング2 専用の章を設けた.
  • PMBOK ガイドに「モデル,方法,作成物」という章を設けたが,これは ITTO とのリンクが維持され拡張されるものである.

以上より,価値実現・成果に重きがおかれるようになり,より実務的慣行に基づくようにするため,第6版までのプロセスベースでなく,原理・原則ベースの標準に移行した,という趣旨が読み取れます.

プロジェクトの定義3 などの根本的な概念についての扱いに差分はみられず,上記で記した通り,過去の版の内容を無効にする内容はないとのことです.

なお,第6版の日本語版はA4サイズ,第7版の日本語版はB5サイズと書籍の大きさ自体が小さくなっているため,原理・原則ベースに移行したことで,記述量も少なくなっていると考えられます.

まとめ #

本ページでは,プロジェクトマネジメント知識体系 (PMBOK) ガイドの第6版日本語版 [1],第7版日本語版 [2] の違いについて説明しました.

主な違いは,価値実現・成果に重きがおかれ,より実務的慣行に基づくようにするため,プロセスベースでなく原理・原則ベースの標準に移行したことと考えられます.

参考文献 #

[1] 一般社団法人PMI日本支部, プロジェクトマネジメント知識体系ガイド (PMBOK ガイド) 第6版,日本,2017.
[2] 一般社団法人PMI日本支部, プロジェクトマネジメント知識体系ガイド (PMBOK ガイド) 第7版+プロジェクトマネジメント標準,日本,2021.


  1. 第7版に記載された表現を引用しました. ↩︎

  2. 第6版では,プロジェクトをマネジメントするためのプロセス,インプット,ツール,技法,アウトプットおよびライフサイクル・フェーズの適切な組み合わせを決定することを,テーラリングする,と呼んでいます.第7版では,プロジェクトマネジメントのアプローチ,ガバナンス,プロセスが特定の環境および目前のタスクにより適合するように,それらを慎重に適応させること,としています. ↩︎

  3. “独自のプロダクト,サービス,所産を創造するために実施される有期的な業務.たとえば,給与計算や窓口対応といった定常業務はこれに該当しない”,と定義されています. ↩︎


This work is licensed under CC BY 4.0